DAY 308 Dance alone on the rooftop.

深夜。月は高く上がって黒に塗りつぶされる寸前の濃紺の空で淡く光っている。ホテルの屋上から見下ろす湖は対岸の町の光が反射してゆらゆらと揺れている。

イヤホンを耳に突っ込んで煙草に火を点ける。昼間の暖かさはどこかに消えてしまっている。パーカーのジッパーを引っ張り上げる。ゆるい風が吹いている。

いつからだろうか、夜に外で音楽を聴きながら煙草を吸うのが無性に好きになった。しんと静まり返った、遮るものなんか何もない広い空間なのにまるで密室みたいだ。閉塞感とは無縁の密室。

勝手に腕は振られ足はステップを踏んでいる。へんてこなリズムを刻んでいる。傍目にはちょっとした気狂いみたいに見えるんだろうけど誰も見ている奴なんていない。このおおよそ五分間は自分だけのものだ。

指先に火種が近づいてくる。曲が終わってしまう。もう一本もう一曲といきたいところだがそれは蛇足でしかないとこともわかっていた。

 

Chemical Brothers – Saturate


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