がったがたの山道を走るトラックの荷台の上に立っている。タジキスタンのワハーン回廊ばりの悪路だ。もうあんな悪路を走ることなんてもう無いと思っていたのに、あの時はジープの座席に座っていたからまだましだったのだ。
昨日ホステルに着いた直後にある日本人の男性がサルアガセイエッドという村に行かないかと誘ってきた。その時は夜行バス明けで遠出する気分ではなかったので明日なら行くと答えたが、夜になるまでに滞在している他の日本人の旅行者たちも興味を持ち出して結果合計7人の大所帯で村に行くことに。
せっかく人数が集まったからとタクシーをチャーターして行くことになったのだがドライバーのおっさんがなかなかの曲者だった。頼んでもないのに密造酒を売っているところに案内しようとしたり、サルアガセイエッドに行ったことがないらしく頻繁に車を停めて道を尋ねる頼りなさを披露したり。深夜にホステルに戻ってからも一悶着あったのだが不愉快になるので止めておく。
長い長い時間をかけてサルアガセイエッドに到着する頃には皆へろへろだったが山の斜面にへばりつくように建ち並ぶ村が見えた瞬間に全員のテンションが上がった。確かに壮観な眺めだった。
トラックを降りた一行は村の中に入っていく。最近少しずつ旅行者が訪れるようになったらしいが珍しいことに変わりはなく、次々と村人たちが集まってくる。そして一斉にカメラやスマートフォンを取り出す旅行者一行。皆が次々と村人たちの写真を撮っているのを束の間ぼんやりと眺めていた。自分だってカメラをぶら下げているのに。
突然やって来て一斉に写真を撮り始める旅行者たち、自分もその一人なのだとわかったうえで急に無性にやるせなくなってしまった。別に批判をしたいわけでも自戒の念に駆られたわけでもなく、ふと自分が彼らの立場だったら「なんだあいつら?」ってなるんだろうなあと想像してしまっただけだ。
いつも一人動くことが多いからこんな感覚になったのは初めてだった。だって一人でいると目の前の出来事に対処するので手一杯でこんなふうにぼんやりする余裕なんてない。だが村に滞在する時間も限られているのですぐに頭を無理矢理切り替えてカメラを持って歩き始める。
しばらくして銃を持った男が写真を撮れと言ってきた。至近距離で下からあおって構えていたら合図も無しに耳元で銃をぶっ放され、鼓膜が破れそうなくらい大きかったその轟音のおかげでさっきまで感じていたむにゃむにゃとした胸のつかえは少しだけ消える。でもまたすぐに思い出すし忘れないだろう、自分が旅行している限り。
Pixies – Gigantic
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