DAY 191 The ship floats on the sea of the desert.

早めにバザールに到着したおかげでムイナク行きのバスでは座ることが出来た。昼過ぎにはムイナクの町に到着し、タクシーを拾って一軒だけあるはずのホテルに向かう。町外れにあるホテルらしき建物の前でタクシーは停まり、運転手が大声で叫ぶと老婆が出てきた。よかった、一応営業しているらしい。

ホテルに荷物を置いてフランス人のギヨームと博物館に向かったが閉館中。張り紙を見るととっくに昼休憩が終わっているはずなのに一向に係員が戻ってくる気配がなく、近くにいたおっちゃんやおばちゃんに聞いても皆困惑した表情を浮かべるだけ。結局一時間近く待って諦めることになった。

「せっかく町まで来たしちょっと散策していくわ」とギヨームに言うと「僕も一緒に行くよ」との答え。むむ、一人で気ままにぶらぶらしたかったのだけれど。中心部で明朝のコングラッド行きのタクシーを頼んでホテルへの道を引き返した。

暑すぎるし二人分空きがある車を見つけたら乗ってしまおうと歩きながら相談していると道端に立っていた男が英語で話しかけてきた。彼は英語の練習をしたいのもあっていろいろと案内してくれるらしい。ギヨームはすぐに同意し、船の墓場にも案内してくれるということなので自分も付いていくことに。

バザンというその男は以前モスクワで働いていたらい。バザンの家にちょっと寄ってからかつてのアラル海に向かった。ほとんど干上がってしまったアラル海、しかし少し前にカザフスタン国境に近い大きな川から水路を作って水を引っ張ってきたらしく新たに大きな湖が出来ていた。

新しい湖を見てから一時間、ずっと歩き続けていたが一向に船の形は見えない。そんなに遠くないと聞いていたのに何故だ。「バザン、船の墓場ってまだかかるの?」「あっちの方向だけどまだ見えないねえ。あ、ここの川渡れないから戻って迂回しなきゃ。ごめんごめん」

さらに一時間ほど砂漠を歩かされふらふらになりながら船の墓場に到着。明日の朝にはもうコングラッドに行かなければならないので時間がない、ギヨームとバザンには悪いがここで離脱することにした。

ホテルに戻って地味に重たいサブバッグを下ろしてやっと一息。カメラだけ持って暗くなる前にもう一度町のほうをぶらつこうと外にでると再びギヨームとバザンとばったり。

「北のほうにある町にバザンと行くことになったんだけど一緒にどう?」すまんね、一人でぶらぶらしながら写真撮りたいし日が暮れたら船の墓場にもう一回行きたいんすよ。「ムイナクに帰ってきてからバザンの家で晩飯食べないかって招待してくれたよ!」だからおれは夜に船の墓場に行くしその後バザンの家に行こうにも場所わからんって、携帯もないんだし。

必死に丁重に断り彼らと別れた。いやね、明日もう一泊するんなら北の町にも行きたいしバザンの家にも喜んで行くさ。てかギヨーム、いい奴なのはすごくわかるんだけど微妙にかつ致命的に噛み合わない。歳がけっこう離れているせいなのか、自分が薄汚いおっさんになってしまったせいか。

肉体的にも精神的にもへとへとだったが一人で歩き始めると何故か足が軽かった。空がやけに広く感じる。しばらくして見つけたさびれた売店で揚げパンをふたつ晩飯代わりに齧り、時計を見てホテルと船の墓場のほうへ折り返した。このまま戻れば完全に真っ暗になる前に船の墓場に着けそうだ。

と、その時一台の車がすれ違いざまに停まった。ドアが開いて男が駆け寄ってくる。「サトー、バザンの家に行こうぜ!」いやいや、ギヨーム君。私さっき夜の船の墓場に行くって言いましたやん。君がナイスガイなのはもうわかったから、頼むからもうほっといてくれ。頼むから。

 

Ulrich Schnauss – In All The Wrong Places


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