DAY 168 She’s gone, He’s alone.

「今日はお前たちが泊まっている家のお祝いの日でヤクを殺すらしいが見ていくか?」エブラヒムの提案を受け入れることにしたが当のヤクが逃げてしまったせいで朝食の後からしばらく待たねばならなかった。

太陽がだいぶ高く昇った頃、村の男たちがヤクを囲いの中に追い込んだ。驚いた、そこには昨日見かけた黒と白の二匹のつがいがいたのだ。今日殺すのは白いメスのほうだけなのだが黒いオスが離れないために一緒に追い込まざるをえなかったようだった。

囲いの中で白のヤクだけに縄をかけようと悪戦苦闘しているがなかなかうまくいかない。これは時間がかかりそうだなと囲いの近くから離れたら叫び声がして振り返る。なんと囲いの中から再び二匹が脱走して目の前に広がる草原を駆けて行き、少し遅れて村の男たちも慌てて追いかけていった。

一時間、もう少しかかったかもしれない。首と前足を縛られた白のヤクを引いた男たちがやっと戻ってきた。黒のヤクの姿はない。村の広場で祈りが捧げられた後に白のヤクは地面に倒され苦しそうに喘いでいたが少しずつ静かになった。男たちの足の間から見える黒い瞳の奥にある光が消えていくのがわかる。やがて一人の男が首を掻っ切り添えられたタライの中はすぐに血で一杯になった。

綺麗に皮を剥がれ、肉になり内蔵になり骨になり運ばれていく。子どもたちは特に珍しくもなさそうにその光景を眺め、その横で犬がタライの中の血を美味そうにごくごくと飲んだ。黒のヤクは今どこで何をしているのだろうか、無性に気になって仕方がなかった。

 

Beirut – A Candle’s Fire


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