DAY 086 Before Dawn

電気を消して眠ろうとしたら外から鳴き声が聞こえてきた。大きく甲高いその声はしばらく続き、結局鳴り止むまで発しているのが人間の子どもなのか猫なのかわからなかった。

急に自分が今どこにいるのかわからなくなり、なんだか薄ら寒くなってブランケットを肩まで掛ける。出発してから初めて味わう感覚で少し戸惑った。

タンザニアに来てからとても親切にしてくれた、ツーリストではなくレジデントに分類される日本人の彼ら彼女らはスワヒリ語を自在に使いこなしこちらの人々や生活にすっかり溶けこんでいるように見えた。しかし今はそう見えていても来たばかりの頃はどうだったのだろうか。

言語も文化も全く違ってアジアや欧米みたいに馴染みもなく簡単に想像すらできない、そして故郷からあまりにも遠い土地で実際に暮らすことを「凄い」だとか「大変でしょう」の一言で片付けてしまうのは失礼極まりないし想像力がなさすぎる気がする。

 

まだ真っ暗な中で見送られながらタクシーに乗り込んでバスターミナルに向かう。まだ出発時間まで余裕があったので停車中のバスの前の売店の椅子に座って店番の兄ちゃんに煙草を薦めて二人で煙を吐く。ウガンダ人の男が寄ってきて「おれは中国と韓国が大好きだ。金大中万歳。カンフー最高」とまくしたてながら何度も挨拶風な軽い頭突きをかましてくるのにうんざりする。それを見て笑っていた兄ちゃんが男が去った後にチューインガムをおごってくれたのでお礼にもう一本煙草を渡す。

バスは走りだして間もなくフェリー乗り場で停車する。フェリーはすぐに岸を離れてヴィクトリア湖を西に進んでいく。空の色が変わっていく。あまりに美しいその夜明けはカメラを構えるのが馬鹿らしくなるくらいで何枚か撮ってあとは自分の眼に映すことに専念する。この美しい時間は一度も一瞬も静止することなくじきに終わる。

 

ルワンダ国境のルスモ近くのベナコという町に行くまでにバスはエンジントラブルで一時間ほど立往生し、ベナコからルスモまでのタクシーは大人7人がぎゅうぎゅう詰めにされたりした。乗り切ることができたのは昨晩握ってもらったおにぎりのおかげで、昆布もひじきもわかめも最高に美味かった。

キガリに向かう乗り合いバスの窓から見える風景は明らかに変わった。タンザニアのどこまでも続いていきそうな大草原は長野や岐阜あたりでよく見られそうな緑豊かな高原地帯に。車内では流行らしい甘ったるいR&Bが延々と流れ、もうタンザニアではないのだと気づかされてどうしようもなくセンチメンタルな気分になった。

 

MO’SOME TONEBENDER – Green & Gold


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