DAY 087 A Strangely Isolated Place

例えば、車にバイクが追突したとする。車が急ブレーキを踏んだのは猫が飛び出してきたからで、バイクの運転手はその時胸ポケットで震える携帯に気を取られていた。猫は昼寝をしていたのに突然とある誰かに尻尾を踏んづけられ驚きの余り急に走り出した。運転手の携帯を鳴らしているのは猫の尻尾を踏んだその誰かで、向こうの交差点で見覚えのあるバイクが停車しているのが遠目で見えたのでなんとなく電話をかけながら歩いていて足元の猫に気がつかなかった。さて、この事故は誰のせいだ?

 

バイクタクシーから降りるとそこはとても静かな場所で、小高い丘になっているせいで離れ小島のように周囲から浮きだっていた。ゲートの前のだだっ広い駐車場にはマイクロバスが一台だけぽつんと駐車されているだけで、駐車場の入口の向こう側に子どもたちの姿が小さく見えるが誰もこちらに来ない。いつの間にか太陽が分厚い雲の間から顔を出していたが暑いとも寒いとも感じなかった。

ムランビ虐殺記念館に入って壁の展示に書いてある英文をひたすら読んでいく。読めば読むほどに息が詰まっていき、生存者の証言の展示で足が止まった。「走れる者は走った。走れない者は見つかって殺されるまで地面に伏せていた」

展示を見終わると受付にいた男が記念館の裏に案内してくれた。そこには小屋がたくさん並び、男が立ち止まって目で合図をしたので開けっ放しの入口から中を見るとそこには犠牲者のミイラ化した遺体が雑然と並べられていた。同時に感じる薬品の、あるいは死の臭い。

男は次々と部屋を案内してくれ、その度にただ手を合わた。口から息を吸うことはしたくなかったからずっと死の臭いを感じていた。小さな子どもの遺体を集めた部屋があり、その部屋だけ中に入った。誰かが置いた花束だけが色彩を持ち、一番小さな白いミイラを少しだけ見つめて外に出た。

 

キガリに戻るバスの中でルワンダの虐殺についての記述をネットで調べずっと読み耽る。多くの要因が複雑に絡み合い、かつ最悪の組み合わせになった結果だ。影響力があった人物ひとりが、あるいはひとつの国だけでも史実とは違った行動を取っていれば犠牲者の数の桁がひとつ少なくなっていたかもしれない。ひたすらに、やり切れない。

 

Ulrich Schnauss – A Strangely Isolated Place


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