DAY 056 Bylakuppe, The Quietest Place

バスは定刻よりも早くマイソールに到着した。まだ辺りは薄暗く、とりあえず煙草に火を点けて煙を吐いたところでインド人の男がひとり近寄ってくる。「どこに行くんだ」と聞かれて「違うバスに乗る。クシャルナガル行きの」と答えると乗り場を教えてくれた。

教えられたバスの中にはまだ数人の乗客しかおらず、勢いでこのままクシャルナガルに向かうことにする。座席が8割ほど埋まったところでバスは出発しいくつかの停留所を経て車内は満員になった。

クシャルナガルのバススタンドで降りて宿探し。あまり歩きたくなかったので目についたロッジで見せてもらった部屋が良くはないが最悪でもなかったので即決。荷物を置いて少しうだうだした後にカメラを持ってリクシャを拾った。

バイラクッペの町に着いて料金を払う際にリクシャのドライバーと少し揉める。ドライバー曰く大通りで最初下ろそうとしたのに町まで行けと言ったから追加料金が必要らしい。たまたま通りがかった一人の僧侶がヒンディー語で仲裁に入ってくれた。

結果要求された70ルピーが60ルピーになり僧侶に礼を言う。名をチューサンという彼はその後もバイラクッペについていろいろと教えてくれ、友人が来るまで暇だという彼と一緒に近くのレストランに入った。このあたりでは一番綺麗だとチューサンお薦めのレストランで朝食代わりにモモを頼み彼の話を聞く。

チューサンは今ニューヨークとインド、ネパールを飛び回っているらしい。そして偶然にも彼がニューヨークで住んでいるところは自分が去年の夏に住んでいたシェアハウスの近所だった。運ばれてきたモモを頬張っていると醤油をつけたらもっと美味いぞと教えてくれ、ついでに「インドの飯はスパイシーすぎていかん。今のチベットも中国に侵攻されてから唐辛子も一緒に侵攻してきちまった。昔はチベットで唐辛子なんて使わなかったんだ」とちょっと愚痴。

レストランを出た後にチューサンがiPhoneを取り出して電話し始めた。電話を切ると「ちょっと暇になったからセラ・モネストリー(僧院)とか見てみるか?案内したるわ」とリクシャを拾ってくれた。

キャンプと呼ばれるチベット人居住区はタウンと呼んだほうがいいくらい綺麗に整備されていて、現在は14のキャンプがある。チューサンが住み始めた当初は700人だった僧侶の数は今や5000人以上になっていて、歩いていると真新しい小さなスーパーマーケットまであった。「シャンプーずらりと並んでるだろ?髪ないくせに使うやついるんだわ」とのこと。

見学可能なセラの中へ入るとそこはちょっとした体育館ぐらい広々としていて僧侶が座る座布団が敷き詰められていた。壇上に上がるとダライ・ラマの写真と専用の椅子が置いてあり、チベットについて不勉強な自分でさえ気持ちが引き締まった。

チューサンがバイラクッペに来る時に滞在する家に休憩がてら寄らせてもらう。綺麗なリビングの白いソファに座ってトロピカーナの100%アップルジュースを飲んでいると昼間なのに外から何の音も聞こえなかった。「静かでいいとこだろ?」という彼の言葉に無言で頷く。

しばらくして家を出て友人と約束があるというチューサンと別れた。彼の案内がなければバイラクッペの印象は全く違う表面的なものになっていただろう。そのまま観光名所のゴールデン・テンプルまで歩いて中に入ったがあまり興味を持てずに引き返し、町の入り口までのんびりと歩くことにした。

どこまでも続く田園風景。まだ暑い時間帯のはずなのにリクシャを拾ってさっさと帰る気にはならなかった。町の入り口まで来て午前中にチューサンと一緒に入ったレストランでチョウメンを食べてまた歩く。大通りまで出るとそこはいつもの見慣れたインドで、ごみは無造作に投げ捨てられクラクションがそこら中で鳴っていた。

 

Brian Eno – 1/1 (Music For Airports)

ポートフォリオに Bylakuppe を追加しました。


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