DAY 054 A Sentimental Monkey

町に移った。昨日の雨で川は増水して船着場で降りた際に足場が全て沈んでいたが重たいバックパックを背負ったまま脱ぐのが面倒だったのでそのまま歩き靴は完全に浸水した。干しておけばすぐに乾くだろう。

ゲストハウスに着くとサイくんはどこかに遊びに行っていて、代わりに日本人の旅行者二人が出迎えてくれた。夕方にマータンガ・ヒルにサンセットを見に行こうと誘ってもらい昼の暑い時間帯は近くのレストランでだらだらと過ごす。

マータンガ・ヒルの頂上まで登るとそこは猿たちの縄張りで、一緒に居た男性は置きっぱなしにいていた水とTシャツを奪われていた。かなり人間慣れしていてこちらが何もしないと近づいてちょっかいを出そうとしてくる始末。そりゃこんなところにずっといたら暇だわな。

じゃれあったり喧嘩したりしている輪からぽつんと独り離れて佇んでいる猿がいた。他の猿たちに比べて毛並みもぼさぼさで身体も痩せている。おそらくボス猿争いに破れて村八分をくらってしまったが他に行くところもないといったところだろう。

彼はこちらがいくら近づいても微動だにせず同じ姿勢を保ったままだった。時折ちらりとこちらを見てもすぐに視線を外しまたうなだれる。新橋や京橋あたりで酒に捌け口を求めるしかないおっさんを連想してしまうくらい人間臭いのだ。人生ならぬ猿生に疲れきっている。

そんな彼の佇まいが妙に絵になっていたので至近距離でアングルを変えつつ何度もシャッターを切る。ここまで撮らせてもらったお礼に何か差し出せるものがないかとかばんを漁るとパナジでお釣りの小銭代わりにもらったキャラメルがひとつだけ出てきた。他の猿が見ていない好きを狙って彼の目の前に投げ、無事に胃袋に収まったのを確認する。

キャラメルをあげた後しばらくして彼は自分の近くに移動してきたが、ワンモアとねだるわけでもなく一定の距離を保ちただ ぼんやりとしているだけだった。そしてその黄昏れた顔は笑福亭笑瓶にそっくりで、我々は彼を笑瓶と呼んで帰り道では彼の行末を心配しながら歩いた。一粒のキャラメルが彼が逆境を乗り越えるささやかな助けになればいいなと心から思う。

 

The Notwist – Off The Rails


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