DAY 018 Stand and Shout

スタジアムに着くと人はまだまばらで、130バーツのチケットを買ったら開門は試合開始の一時間前だと言われた。ゲート前にたむろしている人の多くが着ているアーミー・ユナイテッドのユニフォームがわりと好みだったのでオフィシャルショップに入り試着。実際に着てみたらカーキ(あるいは深いオリーブ色)にゴールドのアクセントという組み合わせにうっとりしてしまい690バーツで衝動買いしてしまった。

アーミーのスポンサーでもあるチャンビールと焼き鳥を買いこみ開門と同時に中へ。何も考えずに買ったチケットはバックスタンド席のもので、コンクリートで段差が作られ各自好きに座るスタイルだった。ピッチを挟んで向こう側のメインスタンドはちゃんとシートが並んでいて後で聞いたら値段は200バーツらしい。背もたれは特に必要なかったし、ストローで氷入りのビールを飲みながらピッチで練習する選手たちを眺めてのんびり待つ。

目の前の親子連れのお父さんのほうが振り向いてこちらに話しかけてきた。日本から来たというと親子は席を移動して自分の隣へ。アーミーには平野がいるぞと言われサムズアップ。タイプレミアリーグにおいて日本人選手の姿は特に珍しくもなく、この試合ではホームのアーミーに平野甲斐、アウェイのラチャブリーFCには永里源気が所属している。ちなみに永里選手はなでしこジャパンのストライカー大儀見優季の実兄だ。

お父さん曰く隣の10歳になる男の子はアーミーのユースチームに所属しており毎日練習を頑張っているそうだ。頑丈な身体を作るために牛乳も毎日欠かさず飲んでいるらしい。「将来お前の国でプレーするかもしれんなあ」と言われたので「きっと彼はお気に入りのマンチェスター・シティでプレーするよ」と返すと親馬鹿丸出しの笑顔になった。

試合時間が近づくに連れガラガラだったバックスタンドはほぼ満員に。ホームチームのゴール裏スペースには誰も入っていないのでバックスタンドがホームサポーター席も兼ねているらしい。アウェイのゴール裏ではオレンジ色のユニフォームを着たラチャブリーのサポーター達が太鼓を打ち鳴らしながら早くも歌っていた。こちらの席でも応援団らしき人々が太鼓をセットして大きなアーミーの旗を観客たちに渡している。日は沈みかけているのにスタジアムには熱気が満ち始めていた。

 

電光掲示板の液晶画面に流れる国王の映像に立ち上がって敬意を払い、キックオフの笛が鳴った。前半は終始ラチャブリーのペースで、右サイドでプレーする永里は何度か危険な場面を作り出した。シュートミスやDFの奮闘でなんとか無失点でハーフタイムを迎えることが出来た。隣のお父さんとラチャブリーの強さを嘆き、アーミーは後半盛り返すよとお互い励ましあう。

そして迎えた後半15分、歓声とともに感情は爆発し目の前で紙吹雪が舞った。自分も周囲も一斉に立ち上がり拳を天に突き上げる。待望の先取点。そしてその10分後にもアーミーは追加点を奪い、バックスタンドには「よっしゃもらった!」の雰囲気が充満していた。

先制して以降アーミーの選手たちは息を吹き返したように動き回り、前半は繋がらなかったパスが面白いように繋がった。脅威だった永里はポジションを左サイドに移したものの他の選手と上手く連携することが出来ない。時計の針は刻々と動き、このまま試合終了かなと思っていると前線の平野が浮き球のパスを見事なトラップで収めた。日本代表の岡崎や駒野を彷彿させる献身性で守備に攻撃に走り回っていた平野が放った強烈なシュートはゴール右隅に突き刺さり、バックスタンドは再び揺れた。

ラチャブリーも最後に一矢報いたものの試合は3-1で終了し、ホームのリーグ2位アーミーが3位ラチャブリーを下す結果に。隣のお父さんが前に行こうと誘ってくれたので最前列の柵の前に移動するとアーミーの選手たちが試合後の挨拶のためにこちらへ向かっているのが見えた。空いているスペースを見つけてよじ登り「平野ー平野ー」と叫んだのだけれど、後になって考えたらタイ人だって名前を呼ぶので何か違うことを叫ぶべきだったか。

選手たちが一列に並ぶと応援団の合図でバックスタンドに応援歌が響き渡る。後ろを振り向くと観客たちは両手を高く上げエンブレムが入ったタオルを高く掲げ大声で歌っていた。歓喜の渦の中で喝采を送る祝祭の時間。歌を歌えない自分はただシャッターを切るしかなかった。

 

クラムボン – KANADE Dance


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