DAY 015 Good bye Mr. Per and Hello the big city!

ミスタープーの右足はアクセルペダルを親の仇のように踏み続け、開いた窓から入ってくる風は車内の熱気を強くかき回して再び出て行った。遠目に見える運転席の速度計の針はこの国の多くのエンジンが付いている乗り物と同じく0を指したまま眠り続けている。

彼はピックアップの予定時刻から30分遅れて現れ、急いで車を発進させるのかと思いきや路肩で誰かと携帯電話で話し続けた。電話を切るとルームミラー越しに「今日はトラブルが多い日だ」と話し始め、彼と乗客たちが巻き込まれているらしい状況について説明してくれた。

バンビエンからのバスが遅れていてその中にバンコク行きの乗客が8人含まれているのだということ、それに加えて彼の責任ではないが一組のフィリピン乗客の予約が手違いで取り消されていてその乗客の対処を彼がしなければならないこと。ひと通りの説明を終えたあと彼は車を停めて10分ほどここでバンビエンから来るバスを待つと言った。外に出て彼に煙草を勧めたらメンソールしか吸わないんだと断られ、昨日誰かが忘れていったマルボロをくれた。

煙草を吸いながら彼曰く日本の友人だという人々の写真を見せられた。彼のiPhoneの画面に映るこの国を訪れた日本人の女の子たちはびっくりするくらい美人揃いで、明らかに旅行後であろう何枚かの自撮り写真まであったのでこの男のことがよくわからなくなったが悪人ではなさそうだった。全ての座席が乗客たちで埋まり、ミスタープーが運転するミニバンは国境に向かって走り出した。

国道に出た途端ミニバンは中央寄りの車線をキープし続けひたすら他の車やバイクを追い越し続けた。この国でこんなにスピードを出している車を見たことがない。助手席に座っていた女の子が何か尋ね、「君たちがノーンカーイで夕食を食べる時間を作るために急いでいるんだ。大丈夫、僕はこの仕事に10年のキャリアがあるから」という回答。確かに少し荒々しい運転で気が狂ったようなスピードだったけれどひやりとする場面は一度もなかったし、実際に我々は国境を超えた後に1時間ほど夕食を取る時間があった。

国境に到着し、全ての乗客が出国手続きを終えたところで彼とお別れ。メール送ってくれよ、おれも返事するからと言う彼と記念撮影をした。これからも彼はヴィエンチャンから国境に向かうミニバンを運転し続けていくのだろう。もしミスタープーがあなたのゲストハウスに迎えに来たらラッキーだと思ってもらっていい、彼は仕事が出来る男だ。

 

ノーンカーイからバンコクに向かうバスはその名の通りスーパーVIPで、座席のリクライニングも深く可動式の液晶モニターまで付いていた。エアコンが効きすぎていることを除けば本当に最高だった。しかし深夜12時近くにタイ語で叫ぶ男が入ってきて、どうやら全員バスを乗り換えろと言っているようだ。新しいバスの座席はすでに半分ほど埋まっていて、2つのバスがそれぞれ乗車率が半分程度だったので1台にまとめてしまおうという目論見らしかった。すでに眠り始めていた我々にとっては災難でしかなかったが渋々新しいバスに移った。こちらのバスもエアコンが効きすぎていたが、腹が立って前のバスからブランケットを勝手に持ってきたおかげで二枚重ねにして暖かくなりやっと快適に眠ることが出来た。

モーチット・バスターミナル到着は午前5時半、正直言って早く着きすぎても何も出来ないので迷惑なだけだった。少し時間を潰してタクシーを拾い、運転手がこすっからく道を間違えて遠回りするのにうんざりしてミスタープーの有能さを懐かしみながら2週間前に滞在していたゲストハウスに到着。昨日から同じ宿にチェックインしていた友人と合流して昼過ぎから新市街へ繰り出した。

百貨店やショッピングセンターを冷やかしつつBACC(バンコク・アート・カルチャー・センター)まで歩いてたくさんの興味深い展示を見学。今回の特集はタイの個人収集家がそれぞれ持っている作品をテーマで揃えて公開したもので、想像以上のクオリティの高さに感嘆の溜息が出続けた。外に出る頃にはもう日が暮れていて、晩飯を食べにチャイナタウンに行き先日オーツに案内してもらった時に美味しかったデザート屋台にも再び足を運び舌鼓を打つ。

一日を振り返ると評判の店で昼飯食ってショッピングからのアートセンター、夜はチャイナタウンで晩飯とデザートってデートコースとして完璧だ。「ちょっと病院に行ってきてくれ。今ならレディボーイでもいける」と友人に言ったらお互い様だという返事。そりゃそうだ、完璧な一日なんて実際にあったら絶対に眠るのが怖くなるだろう。

 

Slow Magic – Youths


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