DAY 001 The climax of my trip was the first day.

まだ夜闇が明けきる前にバンコク、ドンムアン空港に降りた。関西空港で機材遅れのため2時間待ちだったけれど朝4時着予定は早すぎたのでむしろありがたかったくらい。湿気を帯びた熱気にむわっとじめっと歓迎され、着ていたフリースを早速脱いだ。

タクシーで宿に向かい、宿の隣の食堂で飯を食ってからボートでカオサンロードに向かう。カオサン周辺に宿を確保したほうが便利なのは承知しているがあの喧騒の近く数日でも滞在するのはちょっときついのであえて離れた宿を選択。あれだ、上京してすぐは23区内に住んだけど年取った今は神奈川とか千葉でまったり住みたい的なあれ。

カオサンでたまたまバンコクに来ていた友人と再会し、安くないけど欧米ナイズされたオープンカフェでお洒落ぶって飯を食った後ミャンマーに向かう彼と別れた。そして全然気乗りはしないし今すぐ宿に戻ってベッドに飛び込みたいけどバス停に向かい47番のバスにえいやっと乗り込んだ。

バスに揺られること40分、事前に目的地を伝えておいた集金係のおばちゃんが「あんたここで降りんさい」と教えてくれた。ああ、もう着いちゃったか。自分の他にも同じ場所で降りた日本人旅行者らしきお兄さんがいて、二人で顔を合わせて「スネークファーム?」「予防接種?」と道連れゲットした模様。

 

スネークファームの敷地内にある赤十字病院は長期旅行者が予防接種を受けるために最初に訪れるいわばメッカとして有名で、自分も予防接種を受ける目的があったから最初にタイに飛ぶことに決めた。建物の受付でワクチン受けたいと伝えてまずは診察券を作り血圧を測定されたのだが、この時点で錯覚かもしれないがちょっと頭が痛かった。たぶん本能が危険を察知して警鐘を鳴らしていたのだろう。一緒に来たお兄さんに弱音を軽くじゃなく思いっきり吐きまくる。

次はドクターとカウンセリングの時間。「どこ行くんだ?そうか、ならこれ受けとけ」的なやりとりをするのだが、予防接種を受けに来た他の旅行者たちのブログ通りわりかしドクターのおっさんはわりと適当である。これはいらん、これ受けたいと事前に決めておくとスムーズに話が進む。カウンセリングが終わると受付に戻されワクチンを購入。いよいよ、時は来た。とっても逃げたい。大声で泣き喚きたい。隣のお兄さんはもうずっと苦笑い。

診療室では眼を合わせた人全員にscary, afraid, nervous, I wanna cryなどニューヨークで覚えたネガティブな語彙を駆使して不安を伝えまくる。みんな優しく「怖くない大丈夫」的なことを言ってくれるのだが、そんな言葉に騙されるほどこちらは年季入ってない訳じゃない。最後に受けた注射は高校三年の貧血検査、ざっと15年は歯医者の麻酔以外の注射から逃げてきたのだ。昔アルバイトしてた郵便局の健康診断で採血の項目があったけど「注射が嫌いすぎて高校の時保健室で暴れて机を投げた」とか適当なことを言って有耶無耶にして逃げたことだってある。

うだうだ言いつつ個室に案内され、注射してくれる看護師らしきオッチャンと二人きりになった。若い経験が少なそうな女の子よりは安心できるがそんなことは些細な問題だ。オッチャンは「イタクナイ、イタクナイヨー」とこれまで数々の日本人旅行者に騙してきた気休めを言ってくれるが、先っちょだけでいいからと言ってくる若い男ぐらい説得力がない。「One, two, three…, Four shot!」そんな笑顔で言わなくてもわかってますよ、テキーラじゃねえんだからよー。

かくして処刑ならぬ注射は行われた。両目をぎゅっと瞑り、息を吐いたらリラックスできるっぽいから結果的にラマーズ法みたいな呼吸をし、生まれたての仔鹿のように震える自分の右腕に針はぶすりと刺さった。訂正、正確にはチクっとでした。あれ、もう終わり?と恐る恐る目を開けるとオッチャンが満面の笑みで「フィニーッシュ」。「あんたすげえ。マジシャンじゃね?」「HAHAHA」とコントの天丼みたいなやり取りを都合4回繰り返して無事終了。

個室の外のロビーに戻ると先に終わって待ってたお兄さん曰く「すっごい賑やかでしたね。ドラッグ打ってるのかと思った」と。ほんとお騒がせして申し訳ない。15分ほど待って副作用とか具合が悪くなってないかを確認し、病院の外に出た。玄関の扉の向こうにある強い日差しの風景に飛び込んだ瞬間、世界が輝いていることを全身で実感。

 

その後お互いやることがなかったお兄さんと二人でバスに乗ってカオサンの近くまで戻り、最初に目についたカフェのテラス席に座りシンハーで祝杯を挙げる。なんば日本橋のK2レコードを利用するくらい音楽が好きという共通点があったりとなかなかに楽しい時間だった。まあ自分は注射という旅行中最大の困難(ボッタクリとか強盗とか不確定なものを除く)を終えたという安心感と開放感でナチュラルにキマってる状態だったと思われる。

日が暮れた頃にカフェを出て一人船着場まで歩く。夜のカオサンロードはお祭りの歩行者天国みたいな喧騒で、やはり宿を取らなくて正解だったと再確認。船着場でボートを待っている間隣にいたマダムなフランス人女性にチャイナタウンまでの行き方を聞かれたのでGoogle Mapで説明。その時「あなた知ってる?今日はNew Year’s Eveよ」と教えられたが、疲れと眠気のせいで中国の旧正月のことなんてどうもよかった。宿に戻りシャワーを浴びてベッドに横になった瞬間意識はストンと落ちる。9:00PM。

 

向井秀徳アコースティック&エレクトリック Water Front


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