MC一切無しのBeach Houseのインスタレーション・ライブはあっという間だった。ちょっと物足りなく感じつつ、でもポルトで見たバンド編成のライブに比べてヴィクトリアの声はより美しくしゃがれていた気がする。そして叫ぶように歌い終わり、息が切れた後もすぐ閉じられず余韻を作り出すために開かれたままの彼女の口にしばしば見惚れてしまった。

会場を出て後は空港に行くだけと思いきやティナが車で迎えに来てくれた。自分のフライトが早朝発なのでまだまだ時間がある、ならトトロのオフィスに遊びに行くかということに。トトロのオフィスの近くにはでかいオレンジがあり圧倒的な存在感、大戦前に創業した老舗のジュース屋らしい。

広々としたオフィスは野郎どもが好きな要素で満ちていた。高スペックのコンピュータ、3Dプリンタと2m幅のプリントが出来る巨大プリンタ、さらに広いガレージと散らばったあらゆる作業道具たち。

トトロの仕事を手伝いに来ていた彼の友人ロバートは自己紹介の際に「生粋のギークだよ」と言った通りゲームやアニメに精通していた。大好きなNARUTOのガイ先生のエピソードを視聴した際は号泣しながら床をヘッドバットしていたらしい。あとMGSの小島監督に対するコナミの雑な扱いには本気でキレていた。

古今東西FF7の召喚獣、運命ではなく偶然に満ちたティナとの出会いのエピソード、マリファナ解禁による犯罪率の低下についてなどいろんな話題に事欠かない夜だった。午前3時に空港まで送ってもらい彼らと別れる。友人の友人というほぼ他人で初対面の人間にここまで親切にしてくれる人を自分は他に知らない。彼らが日本に来たらコーベ・ビーフかエドマエ・スシくらいはご馳走しないとな。

夜明け前にニューアーク行きの飛行機に乗り込んで座席に座ると離陸前に意識を失い着陸の衝撃を感じるまで泥のように眠った。成田行きの飛行機までだいぶ時間に余裕があるのでわざわざ外に煙草を吸いに行く。立て続けに二本灰にした後でまたセキュリティ・チェックを受けて早めにゲートへ向かう。ベンチに座ってWiFiでもと思ったが強烈な睡魔に抗いきれず二時間ほどまた眠り、起きたらもう搭乗が始まっていた。

異様に多いマスク姿の乗客に混じって座席に座ると機内のあちこちから日本語の会話が聞こえて来る。無意識のうちにイヤホンを装着して音量大きめで音楽を再生していた。久しぶりに不特定多数の会話が聞き取れてしまう、意味がわかってしまうこの状況がちょっと気持ち悪かった。ずっとロスト・イン・トランスレーション状態だったので帰国前の通過儀礼の一つなのかもしれない。

キューバから二ヶ月以上続いた時差が無い日々もこれで終わり、これから今までのツケを払わされるのだ。不憫な3月9日を無情にも一瞬で飛び越えて3月10日に向かう。成田に着いて最初に吸う煙草のことだけをずっと考えている。

The Field – Over the Ice

ポートフォリオに Montreal を追加しました。