DAY 280 Beautifully, Hoarsely.

何故ポルトに来たか、いや来なければならなかったか?ワインが目当てではない。Beach Houseのライブのチケットを持っていたからだ。ベルリンで今Beach Houseがヨーロッパツアーをやっていると知ってチケットを探したが軒並みソールドアウトで、まだチケットが残っていたのだがポルトだったのだ。

このライブさえ無ければもっとモロッコに長居出来たはずだ。モロッコは居心地がいい街ばかりだったので後ろ髪引かれることは多々あったがそれでもライブに行くのを止めようなんて微塵も思わなかった。それぐらいずっと行くチャンスを待っていた。

たんまり歴史がありそうな古い古い劇場は客で埋め尽くされた。フロアから上を見上げると二階席、三階席もほぼ満席で客層は老若男女幅広い。アジア系のギタリストの男がオープニングアクトで出てくる。最初は正直早くBeach House出てこねえかなと思っていたが彼の直前に引いたフレーズを重ねていく一人オーケストラみたいに演奏する手法はなかなか見応えがあってよかった。

客電が落ちる。ステージの最奥からフロアに向かって放たれる照明はメンバーのシルエットだけを浮き上がらせた。ヴィクトリアが歌い出した瞬間、強引に襟首を掴まれたかのように意識は引き込まれて吸い込まれた。美しくしゃがれた声。おお、もう何もいらん。

数曲演奏した後に始めてのMC。フロアから野太い声で「Marry me!」と声が飛びヴィクトリアがぼそっと「O.K.」と返して笑いが起きる。自分も同じ気持ちだ、おかしな言い方だがいっそ殺してくれとすら思う。ヴィクトリアの気怠そうに、時々いらいらしつつ叫ぶ姿からずっとずっと目が離せなかった。

アンコールが終わる。現実に戻ってきてしまった。ずっとゆらゆらと漂っていたかったのに。劇場を出て時計を見たらもう日付が変わっている。ホステルまで帰るその足取りは重力がいくらか足りてないみたいにふわふわとしていた。

 

Beach House – Norway


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