DAY 022 The Bustle

タクシーが市街に入った瞬間に全身が喧騒に支配され、未知の国に入ったことを実感するには聴覚だけで充分だった。

車窓から流れていくだけの風景をただただ見つめ、割り込んでくる他の車のせいでしばしば踏まれる急ブレーキなんて気にもならなかった。同じゲストハウスに向かう日本人の男性と二人で煙草を吹かしながらいかにも初めてインドに来た人が言いそうな感想をお互いに披露しているとタクシーは宿の前に停まった。

コルカタ、かつてカルカッタと呼ばれていた街は尼崎出身の女の子と初めて話した時のことを思い出させてくれた。圧倒的な音の洪水で自分の堤防はすでに決壊していて、荒々しく氾濫しているのをただ呆然と眺めることしか出来なくて。

 

翌日、午前中の早い時間にもかかわらず鉄道の外国人専用窓口の前にある椅子はある程度埋まっていた。鉄道の切符を取りに行くという同じ宿の3人の旅行者に便乗し、切符を買うわけでもないのに冷やかしがてらやって来た。彼らが切符を購入するまでの間にATMでインドルピーを引き出し、路上のチャイ屋でチャイを2杯飲んで話しかけてくるインド人の相手をしていたら時間はあっという間に過ぎていった。窓口に戻ると一緒に来た3人はまだ順番待ちをしていたので空いている席に座り、今度はバングラデシュ人たちとまた雑談。イスラム教の白い帽子と衣服を身に纏った彼らは目が合うと優しく微笑み、彼らの瞳はとても澄んでいて涼しげだった。

3人が切符を購入した後はサダルストリート昼食と携帯のSIMカードを購入。インドでSIMカードを購入する時はタイやラオスに比べてやや面倒な手続きが必要で、パスポート以外に写真が必要だと言われて写真屋で一枚証明写真を撮影してもらうことに。証明写真に写る自分は控えめに言ってスケールの小さな犯罪で検挙された収監前の囚人のようでうんざりした。

宿に戻って夕方には再び外へ出た。夕食を作ってくれる宿のスタッフが市場に買い物に行くというので散歩がてら見学させてもらうことになり、合計4人でドラゴンクエストのパーティーのように縦一列で歩いて向かう。自分は最後尾の魔法使いか遊び人のポジションに陣取って夕暮れ時の下町の路地をすり抜けていった。

市場の中に入るとインドに入ってから初めて猫を見た。そこらへんの路上にいるのはだらけた犬ばかりで、ついさっき歩いていた路地は牛を何頭か見かけたぐらい。鶏肉を買いに行った肉屋の店先で見た猫はタイやラオスで見かけた猫と同じで気怠そうに向けられたカメラを一瞥し、すぐに興味を失くして物思いに耽っていた。

 

市場を出て宿に戻るためにバスに乗っている途中、昨晩あれだけ強烈に聞こえていた鳴り止まないクラクションがもう気にならなくなっていることに気づく。コルカタの日常の背中が少しだけ見えた気がしてなんだか気分が良かった。

 

Squarepusher – A Journey To Reedham


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