相当遅くに眠ったはずなのに朝6時に目が覚めた。深い眠りだったらしく身体はすぐに言うことを聞かず、ベッドの上でぼんやりとしていたらドアが開く音がして誰かが入ってきた。同室のオランダから来ているメノーの顔がちらっと見えて朝帰りっすかーなんて考えているとすぐに後ろに一瞬ちらっと小柄な誰かの頭が見えた。
むむっと身体を起こすと髪の長いおそらくタイ人女性がドアを開けて外に出るのが見え、Tシャツを脱いでいたメノーに「ガールフレンド?」と聞くとニヤッと親指を立てられた。連れ込みオッケーなんて一文はどこにも書いてなかったよメノーさんと思ったが何か言うのも野暮だ。ベッドが軋みすぎない限りこちらとしては文句はない。なんだか目が覚めてしまったのでロビーでコーヒーでも飲むかと下に降りる。
すると電気ポットの前でうろうろしている明らかに初めて見る顔の女の子がいた。それもそのはず、彼女は学生服を着ていて顔つきから明らかに地元の子と見受けられる。カップ麺を片手に持っていたので使い方がわからないのかなと察して説明し、ついでに自分のコーヒーも入れて彼女と一緒にテーブルを囲んだ。
彼女は見た目のまんま学生の19歳で、今日はバンコクの学校に試験を受けにきたのだが家が遠くにあるため前泊したらしい。カップ麺を食べ終わった彼女が試験会場に向かうのを宿の前で見送った後に今度は中国人のレオンが降りてきた。今日ドンムアン空港から飛行機に乗るんだけどどうやって空港まで行くのがいいかと相談されたので安いほうがいいのかと聞いたらもちろんという返事。それならGoogle Mapのナビを使ってバスを乗り継いでいくべきと薦めたらよっしゃバスで行くべと乗り気になった。バスは時間がかかるので早めに出発するという彼をまた宿の前で見送った。
気づけばもう昼前、宿の隣にある食堂で飯でも食うかと思ったのだが2日連続で壁に貼られている米系のメニューを指差しているのにおばちゃんは適当にヌードルを運んできていた。別にヌードルも美味しいので不満はないのだがたまには米が食いたいので一緒に店を手伝っているおばちゃんの息子らしきお兄ちゃんに米のメニューを指差したら今回は注文成功。ただし一口食べた瞬間ヌードルのほうが断然美味いことに気づき微妙な気分になってしまった。
部屋に戻るとメノーとガールフレンドが小さなベッドで熟睡していた。よかったよかった、さすがにおっぱじめられたら物申さねばと思っていた。12時のチェックアウトぎりぎりまでパッキングして荷物を全てロビーに下ろし、あとは18時ごろまで何もやることがなくなった。昨日目一杯観光したので外出欲がまるで湧かない。ロビーでのんびりすることにした。
かたかたとラップトップを叩いていると宿の隣に併設されている猫雑貨屋の店番の女の子が小さな猫のぬいぐるみのキーホルダーをくれた。なんでくれたのかよくわからないがありがたく受け取り、代わりにかばんに入っていた日本のガムをあげる。ミントが少し強い味だけど大丈夫かな。
メノーがガールフレンドと一緒に降りてきてオーナーと何やら話し始めた。一向に話が終わる気配がないのでイヤホンを外して会話を聞くとどうやらメノーは200ユーロ札しか持っておらず、150ユーロを飛行機代に使い残りの50ユーロを宿代の精算に回したいとのこと。当然その額のユーロ札が宿に常備されているわけもなく、日曜日なので銀行も閉まっているし難儀しているようだ。ガールフレンドが室内で煙草に日をつけ始めオーナーが渋い顔をし始めたのでちょっと仲裁に入り、カオサンか新市街の両替屋なら外貨から外貨の両替はおそらく可能だと伝えるとメノーとガールフレンドは出て行った。
やれやれという顔のオーナーとメノーは困ったおっさんだと苦笑いしていたらおもむろに冷蔵庫を漁ってよく冷えたライスワインを見つけ自分にくれた。あれ、宿の中は禁酒禁煙って書いてるけど?と言うとワインとビールは実はオッケー、ウイスキーは駄目との回答。たぶん誰かが置いていったやつなんだろうけどなかなかに美味。
しばらくしてメノーが4枚の50ユーロ札を手にして戻ってきた。彼もまた今日チェックアウトで深夜の便で母国に帰るらしく、シャワーを浴びパッキングを済ませてロビーに陣取った彼とお互いの出発までの時間潰しも兼ねてだらだらと話す。
「ガールフレンド連れ込んでたけど大丈夫だったん?」「HAHAHA、もちろんアウトだ。でもおれ今日チェックアウトだから何言われたって平気」「うわー確信犯じゃん」「だって夜遅すぎて彼女が帰れなくなっちゃってどこかで眠りたいって言うんだもん」「たしかに寝てるだけったわ」「宿のスタッフたちはいい顔してないし多分嫌われちゃったよHAHAHA」「当たり前じゃい」
深夜に路上でレディボーイと取り巻き2人にからまれていろいろと盗まれそうになったけどパンチで反撃したから被害は19バーツ入りの財布だけだったとか、実はフリーの会計士で素数が大好き、アムスは物価がクソ高いから旅行はやめとけ他は超ナイス、カナダのシンガーが大好きなんだけど母国のラジオで一度も聴いたことないのにカオサンで聴いたぜだとか。カセットテープの黒いテープ部分みたいなガムの写真を見せられこれ超美味いからオランダ来たら絶対食えと言われたのでそんなグロいん絶対いやと答えておいた。
気づけばそろそろタクシーを拾ってバスターミナルに向かう時間になっていた。セブンイレブンにビールを買いに行くという彼と宿の前で別れタクシーを捕まえて乗り込む。今日はひたすら誰かと話している日だったなと一日を振り返りつつ、何も話さないドライバーとの無言の時間も別に悪くはなかった。
aus – Halo (Ulrich Schnauss Remix)
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