よく歩いた九月だった。それまではだらけ切って腑抜け切って何のやる気もする気も起きずに暮らしていたが、引っ越しを機会にちょっとだけ一念発起して一ヶ月限定のいろんな所に出向く撮影バイトを始めたからだ。

技術的には全く難しい撮影ではなかったし朝に現場の指示を受けたら日が暮れるまで一人で動くというのも性に合っていたと思う。都内のみならず時々埼玉や神奈川まで行くこともあったが通勤時間が長くなることを覗いて特に不満もなかった。

行くところ全てが未知の、自分にとって完全に新しい場所ということでちょっとした旅行気分も味わえた。Google Mapsがあれば迷うことがないのは国内でも海外でも同じでこの二年ほどの間に何百回も繰り返したせいで手慣れたものだ。

ガレージに外車ばかり並ぶ豪邸地帯や東京とは思えないくらい畑に囲まれた町、上り坂ばかりで殺意すら覚えるニュータウンやなど電車やバスから降りて歩き出すのが楽しみでもあった。そして給料を貰ってダイエットにもなるという素敵な仕様。

十月に入ってすぐに衝動的に自転車を買ったのは一ヶ月さんざん歩いて東京という都市にいくらか馴染んだと身体が判断したからかもしれない。徒歩のスピードや目線はもう十分だから次のスピードへ、次の目線へと。以来よほど必要に迫られない限り半径20kmまでは大体自転車で動いている。

最近自分は東京に住んでいるのだと少しずつ実感するようになったのは歩いて漕いでいるおかげだと断言出来る。電車で点から点へ移動するのではなくひーひー言いながら汗をかきつつ省略しない線で動くことが自分には必要だったのだ、と。

 

Daughter – Youth