DAY 204 A Reckless Professor

郊外にあるバスターミナルからはエレバン行きのミニバスが頻発しているがそこまで行くのが面倒だった。徒歩10分の中央駅からエレバン行きが出ているらしいという情報をネットで見つけたのでそれを信じてみる。

いくつかの乗り場をたらい回しにされた後にエレバン行きのミニバスを発見、一時間後に出発するらしいのでこれに決めた。ミニバスの傍にはラフな格好のアジア系のおじさんが暇そうに立っていて、自分と同じくエレバンに向かうらしく話し始めた。

韓国人の彼は一年のうち半年をニューヨークの大学、半年をソウルの大学で教鞭を振るう政治学の教授だった。休暇中にこの周辺の国を回っているということだったが、驚くべきはその旅行スタイルだった。

「昨日アゼルバイジャンのバクー行きの国際電車に乗ったんだけどよ、ビザが無いからって途中で降ろされたんだわ。切符買った窓口の職員がパスポートのチェックをしねえのが悪いんだってクレーム言いに行ったんだけど結局返金しねえの一点張り。ジョージアは最悪な国だな!」

「事前にビザが必要かどうか調べなかったの?」と少し唖然しながら尋ねると「窓口でビザがあるかどうか確認するべきだ!」との返答。んー、一理あるかもしれないが共感はできない。「最近の旅行者はネットで事前に調べてる人が多いよ」と言うと教授はまた怒りながら喋り出す。

「トルコの公園でよ、ベンチがあったから寝袋引いて寝てたんだわ。ほんで朝起きたらカバンに入れてたラップトップが盗まれたのに気づいたんだ!警察に行ったら『公園で野宿するのは違法です』って、ポリスレポートくれないでやんの。だから今はネットに繋げるもんがねえんだ、ふざけた話だわほんと!」

ああ、「ふざけてるのはあなたのほうじゃないですか」って半笑いでツッコミを入れたいけどこれは無理だ。電車の件も公園の件も自己責任という言葉で片付いてしまう話だと考える自分が間違っているんじゃないかと錯覚するくらい、教授はめらめらと怒りに震えていた。

聞けばバックパッカー的な旅行をするのは今回が二回目で、寝袋とマットを持っているのでその辺で寝れそうだったら野宿しちゃうらしい。「教授、ホステルに泊まるお金くらいあるでしょ」という言葉が喉元まで出かかったけれどせっかく収まったのにまた怒っちゃいそうなので黙っておいた。

定刻になりミニバスはエレバンに向かって出発した。最後列のシートに教授と自分が並んで座り、窓を開けると風が入ってきて涼しい。あれ、涼しいだけじゃなくてなんか臭い。「教授、昨日はどこで寝たの?」「駅で寝たぞ。最近ずっと野宿だったからエレバン着いたら久しぶりにYMCAに泊まるわ!」まじか、エレバンまで結構かかるよ勘弁してくれー。

教授はアルメニア入国にビザが必要だということも当然知らず、ビザ取得に必要な額のジョージア通貨もアルメニア通貨も持っておらずドルも100ドル札しか持っておらず。他の乗客全員が国境を越えたのにいくら待っても教授が現れず、様子を見に行ったドライバーのおっさんがビザ代金を立て替えていた。すげえな教授、絶対に真似したくないけどちょっとだけ尊敬してきちゃったよ。

 

tofubeats – おしえて検索 feat.の子(from神聖かまってちゃん)


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