朝目が覚めてなんとなく予感がした。「今日は何もしないで終わりそうだ」と。部屋にあるのは水だけで食料らしきものは何も無い。しかし宿のレストランは高すぎるので最初から利用する気はない。何か買ったり食べたりするためには町のほうまで出なければならなかった。
外に出て湖を眺めながら煙草を吸い、部屋に戻って水を飲んで空腹感を誤魔化す。何もかもがひどく億劫だ。結局薄暗くなったこ頃に煙草の箱が空になってようやく重い腰を上げて町に出た。
レストランで相変わらず炭水化物に偏ったビュッフェを食べて売店で煙草と水を買った。宿まで帰る途中に突然街灯が消えてしまい思わず立ち止まる。停電、そして完璧な暗闇。スマートフォンにライトがあったのを思い出して光らせ、ゆっくりとまた歩き始める
ようやく宿に戻って一服していると到着したばかりの宿泊客らしき男が近づいてきた。ヘアバンドから出た髪は長く、痩せ気味で背が高いその男にトイレの場所を聞かれたので教えてやると用を足した後にこちらへやってきた。
近くで改めて顔を見て少し驚く。さっきは暗かったしちゃんと顔を見ていなかったので気付かなかったが同じ東アジア系の顔をしていたからだ。中国人のベンというその男は煙草に火を点けながら話し始めた。
エジプトのカイロからアフリカ大陸を南下している彼は若く見えるが自分より年上の38歳で、2年の予定でいろんな国を旅行しているらしい。お互い吸っている煙草の銘柄が同じだったので、「これいくらだった?」「最初に買った時は1000フラン、2回目に買った時は800フラン、3回目は600フランだった」「おれはさっき700フランで買った。これもうわかんねえわ」などとしばらく話し込む。
暗闇に浮かぶ彼の顔が格好良すぎたので部屋にカメラを取りに戻り一枚撮らせてもらう。照明は左側から一灯のみで絞りを開放にしても完全なアンダー、暗すぎてAFは役立たず。フォーカスリングを回しながらファインダーを覗いていると今日という何も無いしょうもない自業自得な一日が最後に救われたような気がしたが、それも全てはピント次第だ。
ゆらゆら帝国 – 冷たいギフト
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