DAY 081 Switch On

パーク・ハイアットの朝食は35000シリング以上の価値があった。席について最初に運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ瞬間に思わずにやけてしまうほどに。自分がこれまでいかに雑多な音に囲まれていたのか気付いてしまうくらい静かで、後ろで小さく流れているインストゥルメンタルのBGMもひっくるめて完成された優雅な静寂だった。

 

ダルエスサラーム行きのフェリーに2時間ほど文字通り揺られている間はザンジバルを離れる実感がまるで感じられず、遠くに見え高層ビルがだんだんと大きくなってフェリーが着岸してもまだふわふわした気分だった。そしてタクシーの中で友人が多くの仕事仲間がこの街で強盗に遭っているという話をしてくれたがこの時はまだ全然理解していなかった。

ティンガティンガ村を後にして少し離れたところにある日本料理店に向かって歩き始め、ようやく首の後ろから背すじにかけてちりちりとした感覚があることに気づく。落書きだらけでもごみが散乱しているわけでもないのに何かがおかしく、不穏という言葉が自分の中で変換されて不安になった。

5秒後には向こうから走ってくる車の中に引きずり込まれているかもしれない、後ろを歩いている誰かは襲うタイミングを伺っているかもしれない。ネガティブな仮定は全て現実味を帯びてすぐそばに存在しており、自分から手を伸ばさなくてもその仮定が現実になった時の手ごたえを感じることができる。

日本料理店の中に入って椅子に座るとたかだか20分程度歩いただけなのにひどく疲れていて、もう安全な場所にいるというのに背中の筋肉はこわばったままだ。自分が今アフリカ大陸にいるという喜びなんて本当にどうでもよくて、かつ丼を食べ終わったらさっさと宿に戻って早くベッドで眠りたかった。

 

Hudson Mohawke – Overnight


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